2016.09.08
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篠原風鈴本舗 江戸風鈴
江戸風鈴~受け継いできた音色と、時代に合った絵柄が涼しさ呼ぶ
夏の風物詩といえば、花火、風鈴、かき氷など数多くあるが、今回は昔ながらの技法でガラス風鈴を作っている有限会社篠原風鈴本舗 (東京都江戸川区、篠原恵美取締役) を取り上げる。同社は大正4年に台東区で創業、昭和37年に江戸川区に移転し、現在も同区南篠崎で風鈴づくりを行っている。初代が又平 (またへい) さん、二代目が儀治 (よしはる) さん、三代目が二代目の長男・裕 (ゆたか) さん、現在は三代目の嫁である恵美さんが会社の舵取りをしている。これを恵美さんの長女、長女の婿、三女、二人の男性職人の5人が支えている。特に、二代目の儀治さんは日本だけではなく、米国や欧州など海外でも職人芸を披露するなど、日本の伝統的なガラス工芸品のPRにも一役買った。こういった活動が認められ、東京都名誉都民のほか、東京都優秀技能賞、江戸川区無形文化財保持者など数多く受賞している。
同社が作るガラス風鈴は型枠を使わず、長いガラス棒 (「ともざお」という) に息を吹きかけ、空中でガラスをふくらます宙吹き (ちゅうふき) と呼ばれる技法で作られる。二代目の儀治さんは、この技法でつくる風鈴を「江戸風鈴」と名付けた。平成25年10月には、商標登録も行った。現在、この江戸風鈴を作っているのは、同社と親戚筋に当たる篠原まるよし風鈴の二社だけである。
最近では、中国など海外で生産された生活用品が数多く輸入されている。風鈴も同様で、中国製などアジアで作られたものが多い。ただ、同社は、先代から受け継いできた手作りにこだわりを見せる。同社が作るガラス風鈴には次のような特徴がある。
【江戸風鈴の特徴】
① 材料がガラスである。 (「ソーダガラス」という板ガラスを再利用している)
② 型枠に溶けたガラスを流し込むのではなく、“ともざお”を使用してガラスを空中で膨らます“宙吹き”という技法で作っている。
③ 人の息でガラスを膨らませるので、できた風鈴は大きさや、ガラスの厚さがわずかずつではあるが異なっている。これにより、風鈴の音色も一つ一つ違う。
④ 風鈴の絵付けは、内側から描いている。
われわれ伝統工芸取材・編集部は暑い太陽が照りつける8月上旬、同社がある江戸川区南篠崎の工場を訪れた。作業場は少しでも風通しをよくするため、開け放されていたが、それでも1,320度のガラスを溶かした電気炉の前は暑い。こういった厳しい環境の中で、風鈴作りの作業は続けられていた。職人が行う作業をじっと見つめると、その工程はおおむね次のようになる。
【江戸風鈴を作る作業工程】
① ガラスを電気炉で溶かす。
※【ガラスを溶かす炉の変遷】
昔は、コークスでガラスを溶かすコークス窯などを使っていたので、火の調整が難しく、職人は毎朝早くから炉の中の温度を管理するのが大変だった。今は電気で坩堝 (るつぼ) の中の温度を制御できるので、温度管理の負担はかなり軽減されたという。
② 一円玉くらいのガラスのタネ (口玉という) を“ともざお”という長いガラス棒で巻き取り、少し膨らませる。
③ これにもう一度、ガラスを巻きつけ、“ともざお”の片方から息を吹き込み、本体部分を少し膨らませたあと、先端部分を針金で穴を開ける。この穴は、後で糸を通す穴となる。
④ この後、一息で口玉を膨らませる。
⑤ ガラスを冷ました後、口玉部分を切り落とす。
⑥ 風鈴の鳴り口はけがをしないように削って整える。
※【風鈴の鳴り口のギザギザについて】
この鳴り口のギザギザが江戸風鈴の特徴である音色の決め手となる。風鈴の細長いガラス棒 (「振り管 (ふりくだ) という) がギザギザの鳴り口に触れて、音が出る。すべてが手作業のため、風鈴一つ一つのギザギザの具合が異なっている。これにより微妙に音色に差が出る。
⑦ 風鈴の内側から絵を描く絵付けの作業に移る。
※【絵付けについて】
ガラスの内側から絵を書いていく。絵柄は20~30種類ほどあるが、通常、初めに黒色を素描し、次に中塗りといって、黄色、白色、緑色などの色を塗りこんでいく。最後に赤色を塗るのが一般的な方法だ。 (ただ、黒、黄、白、赤などの個々の色は絵柄によっては使用しない場合があるという。)
使用する色にも、流行りがある。40年以上前は赤色が中心だったが、現在では1割弱に留まっている。今は金魚など涼しげで、かわいいものが人気があるという。また、文字を書くときは反対の裏文字で書いていく。
⑧ 細いガラスの振り管 (ふりくだ) をつけるための糸つけをする。その後、短冊をつけて箱詰めする。
ガラス風鈴を作る上で、難しい作業工程の1つは、ガラスの口玉を巻きつける工程だ。これができるまでには、最低3年はかかる。また、ガラスを膨らませる時、ガラスの重みで膨らんだガラスが下に下がってくるため、斜め上に向けた“ともざお”を少しずつ回しながら、風鈴全体の形を調整する。傾け方や、棒の回し具合などで、ガラスの厚さも一つ一つ異なる。これらの工程に一番神経を集中させる。一人前になるには、絵付けの単純な作業からはじめて、溶けたガラスの小さな玉(口玉)の扱い方、口玉を吹く工程とだんだん移っていく。
同社が作る風鈴の数は、1日に150個から300個。これは百貨店などの催事や小中学生の見学などで作業時間に差が出てくるためだ。代表者の篠原恵美さんは、家業の風鈴作りについて「今も風鈴そのものは変わらないが、その時代、その時々で好まれる絵柄が異なる。絵柄は夏らしいもの、時代に合ったものなど、常に新しいものを取り入れていきたい」と強調する。これからも、家族がまとまり、江戸風鈴の伝統を引き継いでいくとともに、その時代にあった風物を絵柄に取り入れるなど、風鈴作りに新たな風を吹き込んでほしいと願っている。
最近は、インバウンド効果で、日本の伝統的な工芸品や生活用品など、日本のライフスタイルが世界的にも注目を浴びているが、どれも熟練の職人が一生懸命心をこめて作ったものだ。訪日外国人も、ショッピングに時間を割くだけではなく、今回取り上げた江戸風鈴のように、昔からの技法や作り方を守り続けてきたものを実際に観たり、手に取ったりするなどして、日本の伝統文化や、風物に触れてほしいと願っている。
(文・加藤公明)
■ 篠原風鈴本舗
東京都江戸川区南篠崎町4-22-5
TEL. 03-3670-2512
篠原風鈴本舗ホームページ http://www.edofurin.com/
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