クリエイティブの第一線メンバーから見る、その先
“日本の創造力を、より良い世界のために。”というミッションに向け、桜が咲く季節に東京で行われるクリエイティブの祭典「東京クリエイティブサロン(以下TCS)」。毎年3月に開催されるTCSに先駆けて、東京の新たなランドマークである、東急プラザ原宿「ハラカド」にて「Tokyo Creative Salon’s Salon」と題したギャザリングイベントが開催された。
第1部はTCS統括クリエイティブディレクターの齋藤精一氏、TCS統括エリアディレクター寄本健氏、TCS統括共創ディレクター浜野良太の3名が「TCS2025について」をテーマについて、第2部は株式会社れもんらいふの千原徹也氏をゲストに迎え、TCSクリエイティブディレクター田中ヒロ氏と共に「日本のクリエイティブの可能性」についてディスカッションを行った。今回のギャザリングは一般の方も参加できるとあって、クリエイティブに興味があるという専門学校生や買物のついでに立ち寄ったという方の姿もあり、にぎやかな雰囲気の中での実施に。そんな活気あふれるギャザリングの様子をレポートする。
「共創と越境、東京クリエイティブサロン2024が開催。都内10エリアが躍動。」
「東京を世界一のクリエイティブシティに」
東京クリエイティブサロンは「東京を世界一のクリエイティブシティにすること」をビジョンに掲げ、2020年にスタート。桜が咲く季節の毎年3月に、東京で行われる国内最大級のファッションとデザインの祭典だ。東京の様々なエリアに拠点を構え、地域性を活かした多様なコンテンツを同時開催する。初開催時は5地点であったTCSも、5回目となる2025年は10エリアに。更には今回「クリエイティブの可能性の追求」を目的に一般からの作品公募を行い、共創していくクリエイターを広く迎え入れていく姿勢だ。
2025年のテーマは、「QUEST(クエスト)」。”さがそう”という意味が込められており、創造性・美意識の探求をしていくという。開催期間は、2025年3月13日(木)〜23日(日)。
次世代のカルチャー発信基地「ハラカド」
ギャザリングの会場となったのは、TCSの定常ブースを構えるハラカド3階のBABY THE COFFEE BREW CLUB。東急プラザ原宿「ハラカド」は、日本のクリエイティブ文化を培ってきた原宿に2024年4月に誕生した商業施設だ。表参道と明治通りが交差する神宮前交差点に位置し、ハラカドのオープン時に「オモカド」に改称した、対面にそびえる東急プラザ表参道原宿とともに、新たな感性を育み、次世代の文化を発信していく。
世界からも注目される、唯一無二のエリア”原宿”。ここにはかつて、多彩なクリエイターが集い、語らい、創造し、日本のカルチャーを牽引してきた伝説の「原宿セントラルアパート」が存在した。今は無きこの施設のDNAを受け継ぎ、新たなカルチャー発進基地としてハラカドは生まれた。単なる商業施設ではなく「誰もがクリエイターであるこの時代、誰もが刺激を受けるみんなの溜まり場。」となることを目指す。TCSはそんなハラカドを新たな拠点にすることで、コアな期間以外にもタッチポイントを設けることができる。これも今年度の新しいアクションのひとつだ。
第1部:TCS2025のテーマは「QUEST」
日本人が日本の良さを知り、自信をもつことが重要
齋藤精一氏×寄本健氏×浜野良太氏
第1部は「TCS2025について」をテーマに、TCS統括クリエイティブディレクター齋藤精一氏、TCS統括エリアディレクター寄本健氏、TCS統括共創ディレクター浜野良太氏の3名が登壇。TCSの中核を担う、彼らが語る「TCS2025」の展望とは?
浜野氏:まずはTCSとは何か?を教えてください。
齋藤氏:TCSは元々はファッションをどう盛り上げるかを起点に2019年に構想が始まり、2020年に初開催をした祭典です。現在はより大きな視点で「日本のクリエイティブ」を枠として捉え、コンテンツの幅や参画するメンバー、企業も広がっています。インスピレーションとして、街づくりにも繋がっているイタリアの家具の見本市「ミラノサローネ」がわかりやすい。本来は競合である同士が、3月の桜の時期には手を取り合い、日本のクリエイティブの未来のために共創をしていこう。TCSのタイトルの「-Festival of Creativity-(フェスティバルオブクリエイティビティ)」にも、その思いが込められています。一年に一度、日本の価値あるモノづくりの知恵や文化を発掘・発見して東京に集めることで、国内外の方にその価値を再認識してもらえると思います。
浜野氏:寄本さんには東急視点でTCSについて伺いたいです。今回のメイン会場となるハラカドもそうですし、渋谷としてだったりTCSと取り組みをする目的や狙いはなんですか?
寄本氏:渋谷のことだけを考えていても、渋谷も東京も良くならないし他のエリアと連携する機会もレアなので、一年に一回ここでみんなでやる!と決めて、継続してTCSを実施していくことに意味があると思います。スポットだとトーンダウンするし、継続することでTCSの目指すビジョン「東京を世界一のクリエイティブシティにすること」に近づくと思っています。
世界から見た東京はクリエイティブシティなのに
日本人は自分をクリエイティブだと思っていない?
浜野氏:世界から見た東京や、グローバルに見た時の日本という都市のあり方についてどう思われますか?そこに付随する、TCSの役割についてもお聞きしたいです。
齋藤氏:毎年定点観測しているんですけど、海外から見た日本のクリエイティブはとても評価が高い。ファッションやデザイン、食など含めても世界から見て魅力的なクリエイティブシティです。一方で、日本人は「自分のことをクリエイティブ(創造的)だと思うか?」という問いに対しては、20%代と他国に比べてとても低いんです。クリエイティブコンフィデンス(自信や意識)が薄いというか。ここが論点だと思っています。最近は海外ブランドから日本企業へのOEMが多いのもそうだし、日本人よりも海外の人の方が日本の価値を知っている。
齋藤氏:要は日本人が自分たちの良さを知っているのか?に目を向けるべき。その点を踏まえてTCSとしては、そのスコア(意識)を上げていくのもそうですが、きちんと日本でいいモノを作っている人たちが評価され、海外や日本の人たちにモノが売れていく、経済効果を出していくことが大事だと思います。TCSに集めて世界へ提案し、最終的に日本人自身のクリエイティブに対する自信を取り戻してあげる。そんな構図をTCSでは実装していきたい。
浜野氏:よりTCSが目指す先に近づくにはどうしたら?
寄本氏:東京の街の力って、自分たちが思っているよりも影響力って強いと思います。まずそこを顕在化させるのが大事。なので毎年定量的に、目標持ってやっていくことでエリアや日本の魅力を出していけるし、発信することで伝わっていく。
齋藤氏:みんなで熱量を持ちあって、これ(TCS)に取り組んでいくことも大切。ちょっと難しい言葉ですが、PLURALITY(プルラリティ)というワードがあって、多義性などの意味ですがみんな違う考えを持っているけど、一つのものに向かっていこう!ということ。あと楽しくないとみんな一つにならないし、一般の方も参加しない。だからタイトルには、フェスティバル(祭り)とつけて、TCSがお祭りみたいに楽しいモノにしたいという考えを込めました。
浜野氏:都市におけるクリエイティブの役割は?あと今年のテーマの「QUEST」についても聞きたいです。
齋藤氏:どのエリアも地政学的な文化や歴史を持っていて、ステレオタイプなイメージはすでにどの地域もあると思うんですけど、まだ見つかっていない魅力や、無くなりつつあるけど発見することで磨き上げることができるものとか、気がついていない強みとか、実はたくさんあると思う。自分が自分のことを一番わかってないというか。もう一度地政学的にエリアを見ていく。そういう意味も込めて、このテーマをつけました。
寄本氏:東京って昔よりも街中でいろんなものが売られていたり活動が行われている。けれど作ること、新たに発見すると同時にいらないものを見直すことや、追求していくものは変わっていかないといけない。価値があるものをQUEST(探して)いくプロセスの過程で、自分たちが”どうあるべきか”を考えることも大事。TCSはクリエイティブな街のあり方を探求し、実践する仕組みの場になればいいと思う。発表するのは毎年桜の季節ですが、その準備の中でいろんな人やモノに出会うことが、「QUEST」そのものかもしれません。
第2部:広告からおにぎりまで作る
クリエイティブのプロが考える日本のクリエイティブの可能性
千原徹也氏×田中ヒロ氏
株式会社れもんらいふの千原徹也氏と、TCSクリエイティブディレクター田中ヒロ氏が「日本のクリエイティブの可能性」をテーマに登壇した。「株式会社れもんらいふ」は、今や日本を代表するデザイン事務所のひとつ。2011年創業と歴史は長く、現在はデザイン事務所の枠を超え、コンサルティングやスクール経営、映画事業、はたまた新たにおにぎりのプロデュースまであらゆるクリエイティブな活動を行っている。また、同社の事務所を、ハラカドのフロアに構えたという点からも、代表である千原氏のイマジネーションの幅を窺い知れるだろう。商業施設の中に入ったデザイン会社は、日本でもはじめてだそう。そんなクリエイティブの塊、千原氏から見る「日本のクリエイティブの可能性」について触れていこう。
田中ヒロ氏:はじめに、千原さんがどんなことをやっているか教えてください。
千原氏:グラフィックデザインの会社をハラカドの3階フロアでやってます。普段は広告やCDジャケット、MVを作ったり、色々デザインの仕事をしています。紅白歌合戦のコンセプトロゴや桑田佳祐さんのアルバムのアートディレクション、直近だときゃりーぱみゅぱみゅさんが妊娠発表をする際のビジュアル制作とか。これらとは別に、誰にも頼まれず自分でやっている仕事もあります。『KISS,TOKYO』という東京を愛する気持ちを表現するプロジェクトなんですが、『I♥NY』のようなものを日本でもできたら面白いなって。渋谷区とコラボしてオブジェを作ったり。あとは昨年、吉岡里帆さん主演の映画『アイスクリームフィーバー』を作りました。デザインという可能性をどこまで広げられるのか?どんなことができるかな?ということを考えて色々なことをしています。
田中ヒロ氏:勝手にやっちゃうの象徴と言えば、れもんらいふ10周年を思い出しますね。
千原氏:そう(笑)。会社の10周年のタイミングで、自分たちで渋谷と原宿の広告をジャックして。自分で広告をつくって、払って、発信しました。実験的に広告の効果を見たかったり、クライアントの気持ちになってみたり、色々な意味でやってみたんです。デザインの仕事をやっていく上で、依頼されたことをやるだけではなく、自分たちからもなにかを発信していくことで「れもんらいふ面白いことやってるな」と思ってもらえるかなと。
田中ヒロ氏:ぼくと千原さんの関係で言うと、TCSの渋谷エリアの主となるところでもある、渋谷ファッションウィークのキービジュアルなどをご一緒させていただいてからですよね。
千原氏:『アイスクリームフィーバー』と「渋谷ファッションウィーク」のコラボもやりましたね。水曜日のカンパネラの詩羽さんにコラボムービーに出てもらって。撮影の時だけ雪が降るという(笑)。現場力が試された撮影でした。
田中ヒロ氏:TCS2025のメイン会場にもなる、ハラカドとはどんな関わりがありますか?
千原氏:ハラカドのビルを作っていくときに、どうしていけば面白くなるか?ということを一緒にやらせてもらいました。原宿はクリエイターやファッションの文化が色濃い街なので、どう継承していくかという点がポイントでしたね。クリエイターがどうやったら集まる場所になるか?とか。それこそ最初はハラカドにどんなブランドが入ったらいいか?どんなイベントをしていくか?なんて話が多かったんですが、僕は「僕が入る」っていう提案をしました。そうすることでクリエイターが集まる場所を作れるのではと思って。実際に事務所を構えた4月から、偶然僕がハラカドに居合わせたことによって、新たな出会いがあったりもありましたね。
田中ヒロ氏:人々が声がかけやすい環境の中に事務所を置くことで、偶発的な出会いからクリエイティブが生まれていくということですね。
クリエイターが集まれる
セントラルアパートのような場所を作りたい
田中ヒロ氏:原宿のルーツを掘っていくと、今は無き「セントラルアパート」があり、元々クリエイターが集まる街でしたよね。そこからいろんなカルチャーやクリエイティブが生まれてた。
千原氏:フォトグラファーの浅井慎平さんやタモリさん、糸井重里さんたちの事務所が入ったビルがあって。そこの一階の喫茶店「レオン」で川久保玲さんとヨウジヤマモトさんが打ち合わせしてたりとか。そういったところが原宿カルチャーの根源でもあるだろうし、そういう場所をここハラカドや原宿にまた作りたいと思っています。
田中ヒロ氏:それでいくと東京クリエイティブサロンが街を舞台にやろうとしている”スモールワールド”のようなことが、すでにハラカドの3階で起きていると言えそうですね。
日本人が自分たちのモノづくりの価値に、気がつくところがスタート
田中ヒロ氏:千原さんがやっているデザインとデザイン以外のものや、偶発的な出会いを求めていることとか、まさに日本のクリエイティブの可能性だと思います。TCSが向き合っているイシューとしての課題は先ほど話に出た「日本のクリエイティブコンフィデンスの低さ」「街やエリアの均質化」「東京の役割とは」。ここを上げていくためには?ということなんですが、この話をするにあたり千原さんのカンヌ映画祭へ行った話をお聞きしたいなと。
千原氏:3年前に映画を作るきっかけがあったんで、女優のMEGUMIさんと呼ばれてないのに、カンヌ映画祭へ行きました(笑)。そこで日本の課題はすごく見えた。やはり韓国とか香港とか、近隣諸国は映画を売っていく先が海外で、そうした作品づくりをしている。だけど日本の映画は国内で収益が回るので海外にPRをしないことが多い。だから結局外貨を取れないまま日本人向けの映画を、日本人だけが楽しむというガラパゴス化が起きている。去年そんな状況を見かねて、MEGUMIさんが「JAPAN NIGHT」を主催して多くの映画人が来場したんです。それってすごく大きな一歩。世界に向けてのきっかけづくりをしていくことが大切だと思います。
田中ヒロ氏:最後のご質問で、TCS2025のテーマは「QUEST」。TCSは何を探していくといいでしょうか?
千原氏:カンヌの話に戻りますが、海外の審査員の方と話す機会があったんですが、皆さん60年代とかの日本映画が大好きなんです。美しくて情緒があって。今、日本が作る映画にそのリファレンスが入ってないことにすごく怒ってました(笑)。日本人が日本のことをわかってないと。日本にはすでにたくさんのいいものがある。日本人に対して、世界がどんな期待をしているかをもっと知る必要があると思いますね。
田中ヒロ氏:そうですね、日本人っていいものであっても、海外の人に評価されて初めて、そのモノの良さに気が付いたりするところがあると思います。京都の西陣織もいい例で、海外に価値を再発見されて、Diorとか海外のメゾンに認められて「すごいんだ」と気がついたり。まずは自分たちが日本の良さをクエストするところからですね。日本人が日本人の素晴らしさとか、文化に気がついてないところを、TCSがちゃんと見つけて集めて、世界にプレゼンテーションしていきたい。
好評開催中!日本伝統を楽しめる「九谷焼」ガチャガチャ
ハラカドの3F構えるTCSブースにて、24年10月から期間限定のガチャガチャスペースがオープンしました!アイテムは、色鮮やかで大胆な上絵付が魅力の九谷焼の箸置きや豆皿。石川県南部で作られている九谷焼は、約360年前の歴史をもち、華やかな色と絵付けが特徴の陶磁器のこと。近年人気のコラボ系の豆皿などは、この九谷焼であることも多く、知らずに持っている方も多いかもしれない。
そんな世界的にも人気の九谷焼。TCSブースのガチャガチャでゲットできるアイテムも、驚くことに全てひとつひとつ手で色付けしているそうで、種類は全18種。カラフルな九谷焼はテーブルに並べると、種類がチグハグでもオシャレにまとまって見えるところもおすすめ。ハラカドに訪れた際は、ぜひ小さな日本工芸品に触れてみてはいかがだろうか?
価格:1回 ¥500
支払い方法:QRコード決済のみ
最新情報はInstagramをチェック:@tokyocreativesalon
TCS2025に期待
TCSの主要メンバーやクリエイティブのパワーで日本を盛り上げる千原氏の対談は、エネルギーに溢れていた。年々ジョインする企業や仲間が増え、更なるクリエイティブの共創を体現できるお祭り(フェスティバル)になることが予想されるTCS2025。規模が大きくなろうとも変わらないものは、皆が日本のクリエイティブの力を信じ、東京を世界に誇るクリエイティブシティにするという思い。同じゴールを目指し手を取り合う仲間がいる限り、きっとうまくいく。そう思わずにはいられないサロンのサロンであった。そんな仲間がいる限り、日本のクリエイティブの未来は明るい。
Tokyo Creative Salon(東京クリエイティブサロン)
TCS2025年日程:2025年3月13日(木)〜23日(日)
公式サイト:https://tokyo-creativesalon.com/(TCS2025の情報更新は25年1月を予定)
公式Instagram:@tokyocreativesalon
東急プラザ原宿「ハラカド」
アクセス:東京都渋谷区神宮前6-31-21 原宿スクエア内 東急プラザ原宿「ハラカド」
公式サイト:https://tokyu-plaza.com/harakado/
BABY THE COFFEE BREW CLUB
運営時間:8:00〜23:00(テイクアウト 10:00〜22:00)
アクセス:東京都渋谷区神宮前6-31-21 東急プラザ原宿 ハラカド 3F公式サイト:https://baby.thecbc.jp/