ファッションキュレーターと巡るふくしまシルクロードの旅
-後編-
福島県が世界に誇る資源「紡績・縫製・染織」の魅力を、ファッション業界やテキスタイル
に興味のある方に知ってもらい、体験してもらうべく企画された「ファッションキュレーターと巡るふくしまシルクロードの旅」。今回、日本ファッション協会は2泊3日に及ぶ、濃いツアーに完全密着。
本ツアーのポイントは、年間200社の繊維工場を回る、ファッションキュレーター宮浦 晋哉氏と共に、企業の現場を見学できるということ。ここでしか体験できない貴重な経験に、参加者全員がキラキラと目を輝かせた三日間をレポートします。
前編では、織機や絹織物の発展と歴史を学べる『かわまたおりもの展示館』や福島県のみならず日本経済の発展に貢献してきた養蚕業を現在も営んでいる飼育施設、さらに世界が注目する世界一薄い絹織物「フェアリー・フェザー」を生産する齋栄織物株式会社を紹介しました。
後編では、皆さんも一度は触れたことがあるであろう「ニット製品」の生産工場や
衣類になる前の原料の「糸」を染色加工する工場、さらに最終日には本ツアーの集大成とも言える「蚕が作った繭が絹糸になるまで」を体験できる工房を紹介します。
ファッションキュレーター宮浦 晋哉氏
ファッションキュレーター宮浦晋哉氏
株式会社糸編(いとへん)代表。大学卒業後にキュレーターとして全国の繊維産地を回り始め、今や年間200ヵ所以上の日本の繊維産地の機場や染工場をまわる。繊維産地とデザイナーをつなぐファッションキュレーターとして、繊維産業の活性化を担う人材育成・発掘に向けて様々な取り組みを行う「産地の学校 」の主宰を務める。
株式会社 糸編HP:►https://ito-hen.com
「齋栄織物株式会社」を後にし、福島県の中でも人気のレストランでパスタランチを堪能。
今回のツアーは内容はもちろんですが、参加者から朝昼夜の食事についてもご好評の声をいただきました。宿泊施設には温泉も完備しており、工場見学や体験以外の時間も皆様に楽しんでもらえたのではないかと思います。
2日目 株式会社大三
福島県伊達市梁川町にある、株式会社大三は1967年創業のニット製品を製作する会社。糸からニット製品(衣類・小物)になるまでの過程を見学します。大きな編み機から、一着の無縫製ニットが編み立てる様子や、柄を編みで表現するための設計図を作るプログラミング、職人技が光る最後の仕上げの縫製作業までを、社内で一貫生産を行う株式会社大三では各工程を直近で見学することができました。
まずは座学で、なぜ梁川町がニットの生産が盛んな「ニットの町」になったのかや伊達ニットの特徴を学びました。歴史から始まり伊達地域のニットの特徴が装飾性の高い太い糸を扱うことに長けている点などについて、同社の代表である三品清重郎さんから詳しく説明を受けました。工場見学の前に座学で情報をインプットすることで、この後の理解を深めやすい構成となっています。
編み
株式会社大三は、シームレスで肌触りのいい無縫製ニットを編み立てることが出来るホールガメント編機や編む段階で柄を出すフルジャカード横編機、プログラミングをするためのCADシステムマシンなど多くの設備を有しています。
プログラミング
ニットの模様や柄を設計するための、プログラミングの作業。テクニカルで、とても緻密な作業の様子を見学させていただきました。依頼をするデザイナーさんやブランドさんと打ち合わせを重ね、リクエストを再現するためにブラッシュアップを経て一つの設計図を仕上げていきます。
縫製
多くの工程を機械でオートメーション化する一方で、最終工程は人の手作業で仕上げていくところに職人技が光っていました。複雑なデザインディティールや着心地の良さを左右する細かな部分など、機械化が進む中でもやはり最後は人の手が加わることでより良い製品が出来上がるのだということを実感した見学となりました。
宮浦氏の評論
実は9年前に、株式会社大三さんを訪れたことがあったので今回久しぶりの訪問となりました。以前はホールガーメントよりも、リンキング縫製、もしくはロック縫製がメインでしたが、久々に来たらホールガーメント中心になっていましたね。背景としては人手不足や生産背景もあると三品社長が話されていたのが印象的でした。しかしどこまでいっても自動化できないモノづくりの世界だと思うので、今日見た皆さんがこれらを発信することでこの技術が広がるきっかけになると思います。みんなが生き生き観察していたのも良かったですね。
参加者からの感想
私たちがショップで見る完成した状態に近い商品を編み上げたり、仕上げをする工程を多く見学できたのはとても良かったです。店頭ではたくさん並んでいるニットも、こうやって職人さんたちの手で最後は仕上げている様子を見ると、一着一着をより大切に着たいと思いました。(その作業によって着心地が変わってくるので)そして、私も衣服をつくる際は、着る人の着心地などデザインだけでなくディティールにもこだわっていきたいと思います。
株式会社大三
公式サイト:http://www.dysun.co.jp/
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2日目 福島染工株式会社
創業70年を超える、福島染工株式会社は天然繊維から化学繊維まで、あらゆる素材の「糸」の染色加工を手掛けています。草木染めやUV効果を持たせた特殊加工も得意だそうです。今回は糸をクライアントのニーズに合わせた色に染め上げるための”色”を設計するところから、実際に釜で糸を染色する工程まで、普段なかなか見ることのできない細かな作業を見学させてもらいました。
多くのビーカーが並び、さながら実験室のような施設から見学がスタート。何度も色の元となる原料の調合を微調整しながら、オーダーに合わせた染色データを作成していきます。
福島染工株式会社は、チーズ染糸と言われる方法で糸を染色していきます。穴の空いた菅(コーン)に糸を巻き、高温高圧の窯の中で内側・外側から交互に染液を循環させて染めていく手法です。こうすることで、染料が均一に糸を染め上げ、ムラなく仕上がりますし、この手法は効率的に大量に染めることができるところも特長です。
工場の中には、大小様々な染糸機(窯)が置かれ稼働。そして釜の中の染液は高温であるため、施設の中は室温が高く参加者たちも驚いていました。この暑い室内で職人さんたちは年中染糸を行っています。特にニットの糸などに関しては、アパレルメーカーがカラーにこだわることに加えて、季節の立ち上がり前にサンプル発注をかけるため、季節が真逆の暑い時期に作成するということになります。我々が日常で何気なく着用している衣類も、このような職人さんの技と努力で成り立っていることがよくわかる工場見学となりました。
宮浦氏の評論
綿やウールなどの天然繊維から、ポリエステルやナイロンなどの化学繊維まで、さまざまな素材を扱う福島染工さんでした。染める繊維によって染色液の温度や染色時間が細かく設定を変えるとおっしゃっていて、長年のレシピやノウハウはあるけど、職人さんが染色機の前で目を光らせていたのがカッコよかったですね。やっぱり機械を扱うのも「人」で、職人さんがいるから鮮やかなファッション製品ができるんですね。感謝ですね。
参加者からの感想
糸の色を決める工程ってあんなに大変で属人的なのだと驚きました。色の最終微調整などはもはや職人技ですよね。また、こんなに暑い中で高温の機材と向き合い糸を染めている職人さんたちはすごいと思います。クライアントさんも私たちが知っている大手メーカーさんがいるようで、親近感も沸きました。
福島染工株式会社
公式サイト:http://fukusen.la.coocan.jp/
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充実の内容を終え、2日目の旅程は終了です。さてお楽しみの今日のお宿へ移動しますが、終始旅をナビゲートしてくださり、ムードメーカーであったファッションキュレーターの宮浦氏はスケジュール上ここでお別れです。バスを降りる前に、旅の評論を熱く述べる宮浦氏の言葉に参加者は皆さん耳を傾けていました。宮浦氏の言葉は本記事の最後でお届けします。
さて、お楽しみのお宿に到着です!本日は飯坂温泉の「つたや旅館」にお邪魔します。飯坂温泉駅の目の前に位置しており、アクセスも抜群ですがお部屋やお料理もとても美味しく、皆さん大満足でした。そしてポイントは熱めの温泉です。日帰り温泉でも立ち寄れるので、皆さんぜひ遊びに行ってみてくださいね。
飯坂温泉 つたや旅館
公式X:https://x.com/tutayaiizaka
公式Instagram:https://www.instagram.com/tutaya1027/
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3日目 工房おりをり
最終日は、本ツアーの集大成とも呼べる作業体験を「工房おりをり」でみっちり学び、体験し、実際に実践。11月4日の福島市民家園で開催されるイベントへの出展作品のインスピレーションを得るための旅程でもあります。講師は工房おりをりの主宰を務める、鈴木美佐子さん。鈴木さんの丁寧かつ楽しい説明のおかげで、半日(約5時間)に及ぶあらゆる作業もあっという間の有意義な時間となりました。鈴木さんの工房は2010年に古民家を改修して開設したとあって、とても趣のあるオシャレな空間に、皆さん到着した時点からテンションが上がっている様子でした。
絹・絹糸、真綿(まわた)、羊毛、各織物の種類の説明から始まり、繭が生糸・真綿になるまでの細かな工程を順を追って実践を交えながら体験して学んでいきました。工房おりをりでは、養蚕から糸紡ぎ、織りまでの工程を全て人の手で大切に行うモノづくりをしているところが特徴です。素材と製法の細部にまでこだわることで生まれる製品には、鈴木さんの「絹を福島の人々の心の支え・誇りにしたい」という想いが息づいているかのように感じました。
繭毛羽(まゆけば)取り
通常は捨てられてしまう、繭のまわりについている繭毛羽(まゆけば)も無駄にはしません。鈴木さんは蚕が大切に育てた繭には捨てるところがないことを教えてくれました。繭毛羽は、手紡ぎし手織りをして自然の草木で染めて活用すると言います。今回はその毛羽を整える工程「カーディング」を、参加者全員で体験しました。カーダーという機械を使います。これを体験できるのも、全てを手作業で行う工房おりをりだからこそです。
生糸作り
繭から1本の糸になるまでの工程を体験していきます。
煮繭(しゃけん)
沸騰した鍋の中で10分ほど繭を煮こむと、繭の糸がほぐれるようになります。
座繰り
真綿作り
着物や帯に用いられることが多いのが、この真綿です。熟練の手しごとが生み出す最高級の真綿は、とても貴重なもの。丁寧に作業を実践していきます。
真綿を手で紡いでいく
真綿によりをかけずに手で紡ぐことで、繭糸本来の極細繊維を活かしつつ、やわらかい糸が出来上がるそうです。
手織りの作業
手紡ぎのやわらかな糸を、手作業で織っていく作業も見学しました。縦と横を交互に織ることで一枚の商品を一枚の布を作り上げていきます。とても緻密で気の遠くなるような細かな作業を行うのは、真綿の特長を最大限に活かしたいからだと鈴木さんは語っていました。
鈴木さんの真綿を使った、貴重な人気商品「mawata bijin」を一部紹介
シルク洗顔ミトン ¥4,400 |
(左)シルク洗顔クロス ¥5,500 |
蚕を育て、真綿から糸を紡ぎ、織るまでの全てを人の手で行うことで、絹糸の細さとやわらかさを生かした洗顔パフ。デリケートな素肌にも安心な肌と同じアミノ酸たんぱく質を成分とする絹100%です。なんといっても説得力があるのは、鈴木さんや1日目の養蚕農家の斉藤氏の肌の美しさ!人の肌に近い天然繊維には美肌効果、保湿効果、抗酸化作用が期待できるそうです。
生まゆ石鹸(無香料) ¥2,530 |
ふくしまの繭 化粧水『mayumist』 無香料150ml ¥4,730 |
参加者からの感想
今回のツアーで学んだ蚕さんがつくる繭から生糸ができるまでの実際の工程を、半日かけて体験できてとても楽しかったですし印象に残りました。こんなにも細かな工程を経て、糸ができてそれが絹になるなんて不思議です。11/4のイベント(ふくしま絹の道フェスタ in 福島市民家園)で出す作品づくりのインスピレーションも、たくさんもらえました。今から(作品をふくることが)ワクワクしています。講師の鈴木さんがとっても暖かくて面白い方でずっと楽しかったです。
工房おりをり
公式サイト:https://someori-kobo-oriwori.jimdofree.com/
オンラインストア:https://oriwori.thebase.in/
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人生を変えるかもしれない、
感動の「ふくしまシルクロードの旅」を通してみえた未来
宮浦氏の評論
こんな濃い2泊3日のツアーは本当に僕自身もとても勉強になったし、各工場も個人ではアポイントを取れないところにもたくさん行けたのは参加者にとってとても貴重なこととなったと思います。今はオンラインでの工場見学も増えていますが、やはり現場に来る醍醐味を感じました。五感で感じることができて、皆さんも学びだけではなく新しいアイディアのヒントもたくさん吸収できたのではないでしょうか。
あと、ファッション業界を目指している学生や社会人にはぜひ参加をおすすめしたいです。日常生活になんとなく満足していない、まだ見ぬ世界に何かを期待をしているんだけどまだ将来を模索している人にとっては、世界や選択肢が広がる貴重な体験・瞬間になると思ったから。
学校と家の往復の中では見えなかったものやワクワクなど、全部のヒントが産地にあると僕は思っています。この三日間を通して布のプロセスを追ったり、工場を見学するだけではなく、参加者同士の出会いがあり、友達ができて、同じ目的の人と同じ時間を共有することってそうそうない。この出会いこそが実はとても大事だし、この経験を通して「新しい自分にも出逢える」ということにも繋がります。
インターネットや動画で観ても得られないものが、産地にはあるし、来たらわかる。一度来たら、二度三度来たくなる。そんな唯一無二のツアーになったと思います。
参加者からの感想
あっという間の三日間でした!今回私は同じ学校の子達と参加したんですが、服が好きで、ファッション系の仕事に就きたいけれど将来はまだ漠然としている私にとっては、未来がクリアになった気がしました。蚕から始まって、糸があり、その糸が染色や編みの工程を経て服になる。この流れを凝縮して見れたのはとても貴重だし、とても勉強になりました。あと自分自身ももっとモノや服を大切にしようとも思いましたね。
福島県の資源と魅力を、伝えるべく企画された本ツアーを通して、参加者の皆さんは何を学び、どう感じ、今後どう活かしていくのでしょうか。終始、驚きと感動に溢れていた長いようで短い、濃い三日間。その答えを知るべく日本ファッション協会は、ツアー終了後に参加者へインタビューを行いました。
そこから見えてきたのは、日本の誇る先人たちの技術を、どうこれから世界へ発信していくべきか。そんなポジティブで逞しい声ばかりでした。デザイナーやファッション業界を目指す服飾学生をはじめ、きっとこの三日間での経験は、どこかで参加者皆さんの未来の一助になることと思います。
11/4開催!ふくしま絹の道フェスタ&
今、応募可能な「ふくしまシルクロードの旅」はこちら!!
本記事を参考に、ふくしまと絹について興味が湧いたからもいらっしゃるのではないでしょうか?ここでは2024年11月4日に開催予定の「ふくしま絹の道フェスタ」のイベントと、今応募できる「ふくしまシルクロードの旅」をご紹介します。
ふくしまの養蚕や織物文化を伝える
「ふくしま絹の道フェスタ in 福島市民家園」
福島では、蚕の種を作るところから織物まで一貫した取り組みが今もなお続いています。その福島で生まれ育った「絹の道」の文化を次世代に継承する活動に取り組む中で、地域内外に向けてのPR発信をより強化するためにイベントを開催します。なお、開催場所は、福島県内から古民家が移築され、展示されている福島市民家園です。今回のツアーに参加してくださった方達も、生糸などを使った作品を出品する予定となっております。気になる方はぜひ足を運んでみてください。
日時:2024年11月4日(月・祝)10:00~15:00
場所:福島市民家園(福島市上名倉字大石前地内あづま総合運動公園内)
料金:入場無料(※ワークショップなど一部有料コンテンツあり)
公式サイト:https://www.f-kankou.jp/event/32825
最新情報は公式サイトをチェック!
次回開催は11/23、24。気になる方は要チェック!
「ふくしまシルクロードの旅」
自然、文化、街、人・・・第2のふるさと探索の旅。信達地方に残る養蚕と織物の文化を体感することで参加者にとってふるさとのような時間をご提供。今回はシルクストールの藍染体験やパフづくりなどから福島の文化を体感できるそう。本記事のツアーとはまた一味違い、福島県の魅力を気軽にご家族やグループなどで楽しんでいただけるツアーとなっているようですので、気になる方はチェックしてみてください。
日時:2024年11月23日(土)13:00~24日(日)15:30
場所所 : 染織工房おりをり・まるせい果樹園・道の駅ふくしま、玉子湯(福島市)、かわまたおりもの展示館・からりこ館(川俣町)等
定員: 15名(先着順)
参加費 : 大人 24,800 円、小人 14,800 円 ※大人は中学生以上、小人は小学生、未就学児は要相談
※参加者には道の駅ふくしまの直売所で使える 5,000 円分の商品券付き
公式サイト:https://www.enishi-travel.jp/tour/detail/1602
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