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2024.10.04

ここでしか体験できない。心震える「ファッションキュレーターと巡るふくしまシルクロードの旅」-前編-

  • #テキスタイル
  • #ふくしまシルクロードの旅
  • #服飾学生へのおすすめ記事

ファッションキュレーターと巡るふくしまシルクロードの旅
-前編-

 

「福島県」「ファッション」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか。テキスタイルに詳しい方であれば、織物や絹(シルク)と答える方も多いかもしれません。福島県は古来より養蚕業が盛んに行われ、福島県の発展はもちろん日本の経済活動に大きく貢献してきました。さらにはニット業や縫製、染織においても現在も有名な地域の一つです。

 

イタリア・ミラノのテキスタイル展示会で最も注目を集めた、世界一薄い絹織物「フェアリー・フェザー」(別称:3Dシルク)を生産する『齋栄織物株式会社』をはじめ、日本を代表する多くの織物にまつわる企業が現存します。

 

しかし、ファッション業界に身を置く人でさえ、これらの工場の現場や蚕(カイコ)から絹ができるまでの過程、糸から生地が出来上がるまでの工程を実際に目にしたことがある方は少ないでしょう。

 

今回、日本ファッション協会はファッション業界を目指す服飾関連の学生や興味がある社会人の方に向けて福島県の「養蚕関連・織物関連」の魅力に触れてもらうべく企画された『ファッションキュレーターと巡るふくしまシルクロードの旅』ツアーに密着。

 

旅程は2泊3日の三日間。充実した内容に参加者からは「初めて見るものが多く感動」「ファッションに携わっていく上で知っておくべき内容が詰まっていた」「多種多様な方と出会えて刺激をもらったし、繋がれたことを活かしていきたい」などと、大満足のお声をいただきました。

 

本ツアーのポイントは、年間200社の繊維工場を回る、ファッションキュレーター宮浦晋哉氏と共に、企業の現場を見学できるということ。ファッションデザイナーを目指す服飾学生や美大生から、大学の准教授までと国内外から多様な方々が集まりました。ここでしか体験できない貴重な経験に、参加者全員がキラキラと目を輝かせた三日間をレポートします。

 

 

ファッションキュレーター宮浦 晋哉氏

ファッションキュレーター宮浦晋哉氏

株式会社糸編(いとへん)代表。大学卒業後にキュレーターとして全国の繊維産地を回り始め、今や年間200ヵ所以上の日本の繊維産地の機場や染工場をまわる。繊維産地とデザイナーをつなぐファッションキュレーターとして、繊維産業の活性化を担う人材育成・発掘に向けて様々な取り組みを行う「産地の学校 」の主宰を務める。

株式会社 糸編HP:►https://ito-hen.com

 

福島駅で参加者の方々と集合し、バスで移動します。バスの中ではこれから始まるツアーの予習とも言える「ふくしま絹の道」の動画を視聴し、福島県でなぜ養蚕業が盛んになったかなどの歴史や、実際に養蚕業に関わる方達の思いをインプット。参加者からは前知識があることで、より理解が深まりやすかったと、後日お声をいただきました。

 

1日目 かわまたおりもの展示館

 

「道の駅川俣」の敷地内に構える『かわまたおりもの展示館』で古代からの織機や絹織物の発展、川俣の歴史を学びました。特産品である”川俣シルク”や近年注目を集める”かわまたアンスリウム”を使った草木染めも展示されています。ガイドは福島県絹人繊織物構造改善工業組合の藤原氏がつとめ、参加者からは疑問や質問が飛び交い初動の緊張ムードが和やかな雰囲気に。

 

展示されている様々な機材や文献に興味深く見入る参加者たち。触れることのできる展示物もあり、五感を使いキャッチアップしながら、積極的にメモを取ったり、写真を撮ったりしていました。

 

参加者の皆様と宮浦氏。アントワープのデザイナー志望の服飾学生から大学准教授まで
国内外から多様な方が参加しました。この出会いもツアーの醍醐味のひとつです。

 

かわまたおりもの展示館

公式サイト:https://www.tif.ne.jp/jp/entry/article.html?spot=5987

最新情報は公式サイトをチェック!

 

1日目 養蚕農家

 

続いては4代続く、養蚕農家の斉藤氏宅を訪問。ここでは絹の繊維である繭を蚕がどうやって作っているのか、どう飼育し、どう収穫するのかなどを実際に直近で見学しました。飼育施設を見学する前に、斉藤氏が養蚕農家の変遷なども教えてくださり、参加者からの質問も多く興味の高さがうかがえる場面となりました。

 

養蚕農家の方々は蚕を『お蚕さま・お蚕さん』と呼ぶ方が多くいます。それだけ絹は貴重な特産品であり、人々の日常や経済を支え、身近であったということ。また、万葉集には「蚕」詠んだ歌があるほど、古来より美しいものとされていたのです。

 

ではいざ、飼育施設の中へ!今回は、蚕が繭を作り始めていたので、施設の内部には蚕が繭を作るための器具「回転蔟(かいてんまぶし)」が一面に広がっていました。この器具は蚕が上へ上へと、あがる習性を活かした仕組みになっており、蚕が上部に集まってくると自動的に回転するというもの。とても理にかなった仕組みに一同「なるほど」と声が漏れていました。

 

養蚕農家の作業は、蚕のお世話だけをするわけではありません。桑の葉しか食べないグルメな蚕たちのために、桑の木を育て整備することも重要な仕事です。斉藤氏の飼育施設の周りは一面広大な桑の木に囲まれており、養蚕農家の作業の幅の広さを感じました。このように斉藤氏から説明を聞くにつれて、最初は蚕にびっくりしていた参加者も、次第に蚕や作られた繭玉に興味を持ち観察していた姿が印象的でした。

 

宮浦氏の評論

12〜13年、産地をめぐる仕事をしていますが養蚕農家の現場をリアルに見たのは初めてでした。今回の斉藤さんなど個人農家さんも多いと思うので、インターネット上では情報もあまり出ていないでしょうし、個人で見学することも難しいと思うので、このツアーの一環として訪れることができて私も大変ありがたかったです。養蚕農家の減少の実情がある中で、私たちがこうやって足を運び、現場で意見を互いに交換できることは、農家さんにとっても刺激になるし、シルクの未来を繋ぐ一助になるのではと感じましたね。

参加者からの感想

通常であれば見ることができない、とても貴重な飼育施設を見学できて感動しました。繭を作ってくれる蚕が段々と可愛らしく見えてきましたし、シルクが高価であることにも頷けます。同時に尊さも感じ、命の大切さやお蚕さまと共に歩んできた養蚕農家さんたちの歴史など、直接話を聞くことでわかりやすく勉強になりました。

 

1日目の見学を終了し、お楽しみの宿へ移動します。また、バス移動の車中で、プロである宮浦氏から施設や工場を見学した評論が聞けるのもこのツアーのポイント。年間200以上の施設を宮浦氏でさえも、各施設は驚きと感動の連続であったようでした。

 

自然の中に佇む温泉も完備している宿泊施設に到着すると、各々自由な時間をとりその後美味しい夕食タイム。食事を済ませた後は、宮浦氏のセミナーと交流会を実施。自己紹介から始まり、このツアーに参加した目的や今後の目標など、熱量の高い参加者たちの会話は予定の2時間を超え、夜遅くまで続くほど皆さん楽しく意見交換をしていました。

 

 

ウッディハウスとうわ

公式サイト:https://woodypro.com/

最新情報は公式サイトをチェック!

 

2日目 齋栄織物株式会社

 

“シルクで世界を変える”、そんな思いを掲げる川俣町に工場を構える齋栄織物株式会社の創業は1952年。老舗に思える佇まいとは逆に、この業界では後発の会社であるとのこと。だからこそ、競合他社とは別の強みをもつべく長年研究開発などに力を入れたそうです。そこで生まれたのが、世界一薄い絹織物「フェアリー・フェザー」。

 

なんとこの製品は2024年1月にイタリア・ミラノで開催されたテキスタイルの世界的展示会で、 609社が出展した中、齋栄織物の「3Dシルク」が最も来訪者から興味を持たれたというのです*。

 

*同会場で来場者が興味のあるテキスタイルのQRコードをスキャンする仕組みの中で、アクセス数第一位を獲得

 

そんな日本を代表する絹織物を生産する齋栄織物株式会社さんでは、「糸から絹生地が出来るまで」の作業過程や工場、会社の歴史などを代表者の齋藤栄太氏の説明と共に見学。蔵のような外観の工場の内部には、所狭しと美しさを覚えるほどにピシッと陳列された大型の機械が配置されていました。気が遠くなるような細かい作業の、綜絖通し(そうこうとおし)などをはじめ職人さんが実際に多くの工程を手作業で行い機械とともに生地作りをされていました。

 

併設されたショップでは、実際に工場で見た3Dシルクをはじめ、柄やカラーも豊かな様々な商品が並び、参加者も自身のお買いものに夢中。中でもデザイナーを目指す参加者は目を光らせながら織物を物色し「これでドレスを作るなら。。」と、熱い会話も繰り広げられていました。

 

宮浦氏の評論

僕もずっと行きたかった齋栄さんですが、織機を見学して個人的にびっくりしたことがありました。通常であれば糸に乗っかってあるはずの「ドロッパー」という器具がなかったこと!おそらくあれだけ細い糸だから、ドロッパーを付けられなかったのでは、、と思いました。ちなみにこの件を質問しそびれてしまいましたが、それはまた足を運ぶ理由にもなりますよね。工場見学は何度訪れても、新たな発見があるので皆さんも一度だけではなく、色々なところに何回でもぜひ行ってみてほしいです。

参加者からの感想

作業の緻密さと、織機の台数の多さや迫力に驚き見入ってしまいました。あれだけ細い糸から生地ができていると思うと、絹織物はとても繊細なのだと再認識しました。世界から注目されている「フェアリー・フェザー」にも興味があります。私はデザイナーを目指しているので、高価かもしれませんが作品の一部に取り入れるのも面白いだろうなとワクワクしました。

 

齋栄織物株式会社

公式サイト:https://saiei-orimono.com/

Instagram:https://www.instagram.com/saiei_silk/

最新情報は公式サイトをチェック!

 

次回は「後編」をお届け予定!

 

すでに大充実の前編はいかがでしたでしょうか。織物原料の川上部分を実際に”見て””学ぶ”ことは、インターネットや動画で見ることとは比べ物にならないくらいの感動があったことと思います。もちろんポジティブなことだけではなく、ファッション業界の抱える問題や日本の継承していくべき産業への課題定義、さらには「我々に何ができるのか」などについても、参加者間や宮浦氏とで度々ディスカッションをする場面も。

 

このツアーを共に経験したメンバーだからこそできる、リアルな意見交換となったことでしょうし、ファッション協会としても『このツアーへ参加する意味の深さ』について刺激となる濃厚は三日間でした。

 

次回の後編では「ニット製品の製作工場」や「あらゆる糸を染め上げる染色加工工場」の見学から、実際に蚕の繭から生糸をつくる工程を半日にわたって体験する旅程まで!まだまだ心が震える『ファッションキュレーターと巡るふくしまシルクロードの旅』は続きます!

 

11/4開催!ふくしま絹の道フェスタ&
今、応募可能な「ふくしまシルクロードの旅」はこちら!!

 

本記事を参考に、ふくしまと絹について興味が湧いたからもいらっしゃるのではないでしょうか?ここでは2024年11月4日に開催予定の「ふくしま絹の道フェスタ」のイベントと、今応募できる「ふくしまシルクロードの旅」をご紹介します。

 

ふくしまの養蚕や織物文化を伝える
「ふくしま絹の道フェスタ in 福島市民家園」

 

 

福島では、蚕の種を作るところから織物まで一貫した取り組みが今もなお続いています。その福島で生まれ育った「絹の道」の文化を次世代に継承する活動に取り組む中で、地域内外に向けてのPR発信をより強化するためにイベントを開催します。なお、開催場所は、福島県内から古民家が移築され、展示されている福島市民家園です。今回のツアーに参加してくださった方達も、生糸などを使った作品を出品する予定となっております。気になる方はぜひ足を運んでみてください。

 

日時:2024年11月4日(月・祝)10:00~15:00
場所:福島市民家園(福島市上名倉字大石前地内あづま総合運動公園内)
料金:入場無料(※ワークショップなど一部有料コンテンツあり)

公式サイト:https://www.f-kankou.jp/event/32825

最新情報は公式サイトをチェック!

 

次回開催は11/23、24。気になる方は要チェック!
「ふくしまシルクロードの旅」

 

 

自然、文化、街、人・・・第2のふるさと探索の旅。信達地方に残る養蚕と織物の文化を体感することで参加者にとってふるさとのような時間をご提供。今回はシルクストールの藍染体験やパフづくりなどから福島の文化を体感できるそう。本記事のツアーとはまた一味違い、福島県の魅力を気軽にご家族やグループなどで楽しんでいただけるツアーとなっているようですので、気になる方はチェックしてみてください。

 

日時:2024年11月23日(土)13:00~24日(日)15:30
場所所 : 染織工房おりをり・まるせい果樹園・道の駅ふくしま、玉子湯(福島市)、かわまたおりもの展示館・からりこ館(川俣町)等

定員: 15名(先着順)

参加費 : 大人 24,800 円、小人 14,800 円 ※大人は中学生以上、小人は小学生、未就学児は要相談
※参加者には道の駅ふくしまの直売所で使える 5,000 円分の商品券付き

公式サイト:https://www.enishi-travel.jp/tour/detail/1602

最新情報は公式サイトをチェック!

Ayumi Fukushima

ファッションラバー。バイヤーを経験後、現在はディレクションをはじめ、エディター兼ライターとして広くて活動中。

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