2022年9月29日、繊維について学ぶイタリアの大学院「ビエラマスター」の学生と、日本の「産地の学校」の交流会が行われました。
今年で3回目を迎える交流会は、一昨年に引き続きオンラインで開催。
イタリアと日本からはそれぞれ4名ずつ、計8名の学生が参加しました。
開催にあたっては、テキスタイルのサンプルをあらかじめイタリア側に郵送し、画面越しにサンプルを手に取り見せ合いながら、和やかながらも充実した2時間となりました。
目次
└イタリアの「BIELLA MASTER DELLE FIBRE NOBLI」
└「BIELLA MASTER DELLE FIBRE NOBLI」学生
└「BIELLA MASTER DELLE FIBRE NOBLI」学生の反応
■まとめ
旭化成「ベンベルグ」がつないだ縁
交流会を主催するのは、世界で唯一キュプラ繊維「ベンベルグ」を生産する総合科学メーカー、旭化成株式会社です。
綿花の種のまわりの細かい産毛(コットンリンター)を原料として作られる「ベンベルグ」は、すべすべとしてなめらかな手触りと高い機能性が評価され、世界中の様々な衣類で採用されています。
同社の繊維事業では、こうした繊維業界を担う有力な若手を育成するため、国内外に向けて幅広く支援活動をしており、今回のイタリアの学生との交流もそのうちの1つです。
イタリアの「BIELLA MASTER DELLE FIBRE NOBLI」
今回イタリア側から交流会に参加したのは、イタリア ピエモンテ州にある大学院「BIELLA MASTER DELLE FIBRE NOBLI」の学生たちです。
同州にあるビエラ市は、「世界3大ウールの産地」とも呼ばれ、毛織物工業が盛んな地域として知られています。
こうした特性を生かして同大学院では、羊毛や毛織物について学びながら、さらに視野を広げ、素材から商品を企画し製造、販売するまでのアパレル業界全体の知識を広く学んでいきます。
日本の「産地の学校」
対する日本側は、日本の繊維産地やテキスタイルを専門的に学ぶ「産地の学校」(株式会社糸編が運営)の学生たちです。
この学校では、座学だけでなく日本に点在する複数の産地を訪ね、現地の工場にて直接製造過程を学ぶという、体験的なプログラムも充実しています。
これまで延べ500人以上が学び、卒業後はアパレル業界や繊維業界、繊維産地などそれぞれのフィールドで、力強く活動を続ける方が多くいます。
今回は両校の学生たちがパソコンを挟んで向き合い、テキスタイルの持つ魅力や現在学んでいる内容などをプレゼンテーションしました。
刺激を与え合うイタリア&日本の学生
交流会の冒頭は、旭化成株式会社の担当者による「ベンベルグ」素材についてのプレゼンテーションです。
「産地の学校」校長/株式会社糸編代表 宮浦晋哉さん
世界で唯一、同社だけが製造できる「ベンベルグ」素材の製造過程を丁寧に解説してくれ、次いで、「産地の学校」の校長でもあり、運営会社・株式会社糸編の代表でもある宮浦晋哉さんが登場しました。
日本の代表的な繊維産地として、「遠州(静岡県)」「久留米(福岡県)」「京都(京都府)」「北陸(福井県)」「富士吉田(山梨県)」の5つのエリアについて取り上げました。
各エリアごとの繊維の特徴や製造工程などを、豊富な写真と動画で詳しく紹介。
画面越しに、イタリアの学生たちがサンプル生地を手にしながら、熱心に耳を傾けている様子が印象的でした。
特に「墨流し染め」の工程で、水面に張った布の上に染料を広げ、独特の模様をつけていく様子には強い関心を覚えたようでした。
さらに、北陸エリアで製造している「マイクロキュプラ」については、実際のサンプルに指を滑らせながら、その手触りの良さと美しさに興味を引かれている様子がよくわかりました。
「BIELLA MASTER DELLE FIBRE NOBLI」学生
続いて、「ビエラマスター」の学生たちによる発表です。
それぞれの自己紹介によると、コスチュームデザイナーとして働いていたなどアパレル業界になじみのある方もいる一方で、貿易関連の仕事や法律を学んでいる学生など多様な背景を持つ学生たちもいました。
現在大学院で学んでいる学んでいる内容や、13か月間にわたり専門講義を受けること、時には研修を受けたり、ヨーロッパ以外にも、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカなどに赴き、工場や産地見学を行っていることなどを発表。
五感すべてを駆使してテキスタイルについて学んでいるようです。
製造現場を訪れた際の写真も紹介してくれ、日本の参加者たちもイタリアと日本との共通点や違いなど新鮮な発見をしていたようでした。
各産地から参加した日本の学生
一方、今回参加した日本の学生たちは、4名ともそれぞれ福岡県、東京都、静岡県など別々のエリアからの登場となりました。
4名とも(うち2名は同じ会社から参加)繊維関連の会社に勤めており、日々実務として本格的にテキスタイルを扱っています。
「産地の学校」荻野さん
福岡県から参加した荻野さんは、「久留米絣(くるめかすり)」の結び方や染め方、織り方などを紹介してくれ、世界各国に伝わる「久留米絣(くるめかすり)」の様々なパターンを見せてくれました。
「産地の学校」三川さん
また、東京都の三川さんは「越前和紙」の製造工程や「墨流し染め」について発表してくれました。
イタリアの学生からは、「和紙で作った衣類は洗えるのか?」「この特徴的な生地でどのような製品が作られるのか」など質問が飛び交い、大いに刺激を受けていました。
「産地の学校」山本さんら2名
最後に静岡から参加してくれた山本さんら2名は、スマートフォンを活用して、コーデュロイ生地の製造工程をプレゼンテーションしました。
そのなかでも、3Dパターンコーデュロイの持つ独特な模様に、イタリアの学生たちも興味を引かれた様子で「どのような製品に使われる生地なのか」と質問。
直後、帽子やクッションに仕上がったサンプルを見せてもらい、一瞬どよめきが起こりました。
予想以上の出来栄えに、感心しているようでした。
「BIELLA MASTER DELLE FIBRE NOBLI」学生の反応
日本の繊細なテキスタイルを目の前にして、イタリアの学生たちからは、伝統的な製造方法と機械的なものとは、どちらがより日本で用いられているのかなど、実践的な質問も飛び出しました。
どちらのバランスも保ちながら、こうしたテキスタイルを生み続けていることに対し、イタリアでも同じような状況であると教えてくれ、最後はインスタグラムの紹介を交え、交流会は無事締めくくられました。
まとめ
およそ2時間におよぶ今回の会でわかったのは、イタリアの学生も日本の学生も、全員がテキスタイルに深く魅せられ、よりよいものを生み出したいと熱く思い描いている点です。
イタリアと日本の若い世代の力が、今後も両国のテキスタイル業界を盛り上げてくれることを願ってやみません。