CULTURE
東京クリエイティブサロン2025|10の街で出会った、都市と創造のストーリー
春の息吹を感じ始める3月、「東京を世界一のクリエイティブシティへ」というビジョンのもと、今年で第6回目となる国内最大級のクリエイティブの祭典「東京クリエイティブサロン/Tokyo Creative Salon 2025(以下、TCS)」が開催された。都市とファッション、デザイン、アート、伝統工芸、インスタレーション...など多様なクリエイティブ領域が融合し、東京のみならず日本中のクリエイティブを誰もが体験し体感できる唯一無二のイベントだ。
本年は2025年3月13日から23日にかけて、東京の10エリア(丸の内、日本橋、銀座、有楽町、赤坂、六本木、渋谷、原宿、新宿、羽田)を舞台に、過去最大規模となったTCS 2025は、イベントを超えて東京とクリエイティビティの未来を再考する11日間となった。
TCSの最大の特徴は、"体験を通じて都市の魅力を再発見する"という構造にある。コンテンツを「見る」だけでなく、「歩く」「出会う」「探す」などを通じて、各エリアのあちこちに仕掛けられたクリエイティブのカケラに触れることできる。そして、来街者自らが地域の魅力に気づき、創造性を感じることができる。
本レポートではTCS 2025の各章を通じて、東京という都市がいかにクリエイティブの基盤を持っているのか、その資質がいかに創造の舞台として編み直されているか。そして、それがいかにして「世界一のクリエイティブシティ」への道を切り拓いていくのかを読み解いていく。まずは10の開催エリアから、特に印象に残った注目コンテンツを3つずつ紹介し、それぞれの街の風土と交差した"創造のかたち"をたどることで、TCSという祭典の本質に迫りたい。
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TCSを通して見つける、日本が誇る知恵や技術、そして美意識
VIA:tokyocreativesalon
TCSは毎年3月、桜の咲く東京を舞台に開催される国内最大級のファッションとデザインの祭典である。2025年で6回目を迎えた本イベントは、「JAPAN CREATIVE FOR BETTER WORLD-日本の創造力を、より良い世界のために。」というメッセージのもと、日本のクリエイティビティを世界と未来へ発信することを目的としてきた。
今年は、日本が誇る知恵や技術、そして美意識を"再発見し、再定義"することが掲げられた。その中心にあるのが、今年のテーマ「QUEST|さがそう〜創造性・美意識の探求〜」である。これは、見慣れた日常の中から「風土・文化・感受性に育まれた日本の創造力」を再発掘し、世界視点で磨きあげることで価値を再認識するという姿勢である。
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そしてTCSの最終的なゴールは、「東京を世界一のクリエイティブシティにすること」だ。その背景には、「日本には世界に誇る文化や技術があるにもかかわらず、日本人自身が"自分たちはクリエイティブではない"と感じている」という課題。TCSはその意識を更新し、"創造に触れる"機会を都市の中に点在させることで、一人ひとりの中にある創造性を静かに起動させていく。
TCS 2025の計画にあたって、新たな試みを取り入れたところもポイントだ。齋藤精一氏率いるパノラマティクスが中心となり、各エリアの地政学・産業・歴史・文化・資源等をディープリサーチによって調べあげ、この調査結果を各エリアのコンテンツに活かすことで、単なるイベントではなく「東京の地場産業の魅力の再発掘するきっかけ」として機能し、来街者を楽しませる仕掛け作りに繋がった。
(左)ロゴのデザインを手がけた色部義昭氏、各エリアロゴ
2024年よりこの独特なTCSのロゴをデザインしたのは、色部義昭氏。鉄道や文化施設、公共空間などにおけるグラフィックデザインの第一人者として、視覚と言葉を通じた"場のデザイン"に取り組み続けてきた人物だ。
「いかに東京の街の風景に飲み込まれないかを意識しました。ロゴやビジュアルは、都市の風景の中で意味を持つ記号としてデザインしています。視覚とは、単なる装飾ではなく、都市の解像度を高めるためのインターフェースだと思っています。また、昨年との違いはこの線の"ぐしゃっと感"です。実は昨年はデザインを手付けで作っていたこともあり、パターンは複数ほどでした。それを今年はグラフィックジェネレーターを導入することで、線の太さや形をランダムに生成できるようにし、パターンの幅が広がりました。エリアの方達の『なんとなく、このロゴ〇〇っぽい』(例えば丸の内)という意向もありますし、より地域に寄り添ったロゴになっていけるのでは思います。」
ハラカドが担った"出発点"としての役割
「ハラッパ」の様子、オープニングでの齋藤精一氏、訪れた来街者
TCS 2025の幕開けは、今期のメインエリアとなる、2024年春開業の東急プラザ原宿「ハラカド」。3月13日に4階の「ハラッパ」では、齋藤精一氏によるキーノートトークをはじめ、各エリアの代表者によるプレゼンテーション、関係者によるセッションが行われ、東京の未来を照らすクリエイティブの祭典が高らかに開幕した。
「ハラッパ」において注目したいポイントは、TCS 2025の全10エリアをつなぐ情報拠点「QUEST BASE」が設けられた点である。ここでは、各エリアの企画紹介やパンフレットの配布、エリア横断コンテンツ「知らない誰かのおすすめに出会える!Tokyo QUEST Gacha」と題したガチャガチャ(カプセルトイ)の設置など、都市を巡るためのナビゲーションの役割を果たしていた。訪れた来場者が「次にどの街へ向かうか」をオフラインの場で自らが選び取る楽しさは、現代だからこそ貴重だと言える。
また、この場では初の公募型企画「TCS OPEN CALL 2025」の受賞作品や、尾州・福山と日本&イタリアの若手デザイナーによる協創プロジェクト作品の展示や積水ハウスと建築家/隈研吾氏(東京大学特別教授)の「KUMA-LAB」の学生がAIを活用して製作したインスタレーション作品、アサヒビールのスーパードライ生ジョッキ缶ビアバーなど多くのコンテンツが登場。
東京の中心である「ハラカド」の一角に、日常と非日常、商業と文化、計画と偶然が交錯する空間が生まれたことこそが、TCSの基点としての象徴であったともいえる。ここはまさに創造の旅のはじまりであり、都市に開かれた創造のインターフェースとしての役割を担っていた。
創造が交差した10の街
丸の内エリア
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LIVE STOCK MARKET
丸ビル1F マルキューブを舞台に展開された「LIVE STOCK MARKET」は、"デッドストックを生き返らせる"をテーマにしたマーケット型インスタレーションである。スタイリスト・小沢宏氏によるキュレーションのもと、不要とされてきた衣類や資材が再編集され、新たな価値を持つプロダクトとして再提示された。店頭には元ユナイテッドアローズの有名スタッフの吉岡レオ氏の姿も(写真右)。来街者にとっても、手軽に楽しみながらサスティナブルに触れることができ、親子連れや若者たちなど多くの来場者で連日賑わいをみせていた。
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背広散歩
クラシックなスーツスタイルに身を包んだ紳士たちが、丸の内仲通りをゆったりと歩く「背広散歩」は、都市と装いの関係を再構築するパフォーマティブな試みだ。装いに込められた美意識や様式、所作が、洗練された都市空間に溶けることで、日常の風景が一瞬だけ「特別な時間」へと変貌を遂げていた。この様子はSNSでも話題となり、日常でありながら非日常という、都市におけるスーツファッションの持つ象徴性を改めて浮かび上がらせる企画となった。
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SASHIKO GALS(サシコギャルズ)
丸ビル 1F マルキューブで開催された「SASHIKO GALS」は、岩手県大槌町に拠点を持つ刺し子ブランドによる展示・販売イベントである。震災復興の一環として立ち上がった同ブランドは、手縫いによる伝統的な刺し子の技術を現代的なアイテムに落とし込むことで、東北の記憶と都市の創造性をつなぐ試みを実現した。会場には一点もののスニーカーやアートピースが並び、手仕事の温度が丸の内の商業空間に静かに溶け込んでいた。
日本橋エリア
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日本橋・こいのぼりなう!
日本橋三井タワー1階アトリウムに展示された、テキスタイルデザイナー・須藤玲子氏によるインスタレーション《日本橋・こいのぼりなう!》は、振袖地や手ぬぐいなどの素材で仕立てた色とりどりの鯉のぼりが天井を泳ぐ壮観な作品である。映像演出は齋藤精一氏、空間設計はフランス人建築家アドリアン・ガルデール氏が手がけた。伝統と先端の両面を持つ日本橋の中心で空間に舞う鯉のぼりは、都市に浮かぶ"記憶の布"として、来街者に日本橋の文化と歴史を語っているかのようであった。
Bridge ~ suzusan and Japanese Handcrafts ~
『伝統を未来にブリッジする「工芸」』。日本橋髙島屋S.C.では、有松鳴海絞りの技術を現代に継承するブランド「suzusan」と、新鋭作家による合同展示《Bridge》が実施された。伝統的な染色技術と現代的な感性が交わる空間には、五感を通じて日本のクラフト文化を再認識する展示構成が施されていた。
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Open Craft Park
伝統と革新の街・日本橋。この地には日本古来から根づく伝統工芸が今も息づいており、さらに進化を遂げた新たなクリエイティビティが集まってきている。「Nihonbashi Open Craft」では伝統工芸とその手法や技法の裏側を垣間見ることで、秘められた「クラフトの裏側」を体感し出会う機会を与えてくれる。来街者にとっても、日本橋の価値を再発見できる貴重なインスタレーションとなっていた。
銀座エリア
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GINZA QUEST
銀座の街全体を巡る体験型謎解きゲーム《GINZA QUEST》では、参加者がスマートフォンを片手に、街中のクリエイティブスポットを探索。銀ブラをしながら、ヒントを手がかりに歩き進めるそのプロセス自体が、銀座という多層的な都市の魅力を再発見する仕掛けとして機能し、偶発的に銀座の魅力に出会う機会となっていた。
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GINZA FASHION QUEST
松屋銀座前で展開された《GINZA FASHION QUEST》は、来街者を対象にファッションスナップを撮影・プリントしてプレゼントする参加型企画だ。カメラマンeito氏が切り取るファッショニスタたちの姿は、銀座の街を行き交う人々の日常に創造の焦点を当て、ファッション都市・銀座の表情を鮮やかに映し出していた。
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春霞 お花見能楽堂
GINZA SIX内の観世能楽堂では、観世三郎太出演の能《吉野天人 天人揃》が上演され、「能とお花見」についてのトークや「能の楽しみ方 所作と謡とお囃子」のワークショップのほか能面・装束の展示などが実施された。桜と能が交差する空間は、都市にありながら時代の深層へとつながる静謐な祝祭の場へと昇華され、観客の記憶に深く刻まれていた。
有楽町エリア
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UpCycle CANVAS
有楽町ルミネ、阪急メンズ東京、有楽町マルイの3館を横断して展開された《UpCycle CANVAS》は、衣類端材にアートスタンプを重ねてオリジナルタグをつくる参加型プログラム。スタンプを重ねていくと、アーティストJUN OSON氏によるグラフィックデザインのエッセンスを加えた自分だけの作品が作れるという、楽しさとサスティナブルを体験できるイベントとなった。
VIA:tokyocreativesalon
「天使と悪魔」Intimate Art Performance
有楽町マリオン センターモール Cross Runwayで展開された《天使と悪魔》は、WACOAL MENとbeautiful peopleによるアートパフォーマンスだ。レース素材のボクサーショーツとトレンチコートという対極的なアイテムを用い、モデルの身体表現によって"美の二面性"を表現。ジェンダー観や身体性の再定義を問いかける演出は、有楽町という都会の真ん中で街行く人々の視線を引き付け観客を楽しませていた。
VIA:masaki_durian
MAKE ニューカッコカワイイ With ドリアン・ロロブリジーダ
同じく、有楽町マリオンのCross Runwayで開催された本企画は、ドラァグクイーン・ドリアン・ロロブリジーダ氏によるライブメイクショーだ。「ニューカッコカワイイ」をテーマに、メイクアップと衣装によって性別や美意識を軽やかに横断する姿が展開された。会場ではメイク相談コーナーも設けられ、観客と出演者がフラットに交わる交流の場となった。
六本木エリア
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のとのいえ - 里山が紡ぐ、古道具の記憶 -
東京ミッドタウンプラザB1Fに設けられた《のとのいえ》では、震災や豪雨により被害を受けた能登の家々から救い出された古道具が展示された。木の節目や陶器の歪みなど、災禍を経た記憶の容れ物に宿るそれぞれの痕跡が、かつての生活を語りかける。大都会・六本木にいながら、里山の時間に触れるようなこの空間は、多くの鑑賞者の関心を惹きつけた。土日祝日は一部の小道具を販売し、終日賑わいをみせていた。
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ダンスパフォーマンス『アリとキリギリスと』
ROPPONGI STREET THEATERの第7弾として上演された《アリとキリギリスと》は、衣装作家・ひびのこづえ氏とコンテンポラリーダンサーたちによるストリートパフォーマンスだ。東京ミッドタウンプラザの地下にある大きなアートワークを舞台に見立て、演者と観客、日常と非日常が交錯する時間となった。寓話的な物語を現代的な身体表現で読み替え、都市のなかに潜む"物語性"を顕在化させた本作は、多くの観客の心を揺さぶったことは言うまでもない。
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CFCLインスタレーション展示
高橋悠介氏が率いる設立5周年を迎えたファッションブランド「CFCL」は、東京ミッドタウンの空間特性を活かしたインスタレーションを展開した。3Dコンピューターを用いたニッティングの技術を中核に据え、時代に左右されない衣服を提供する「CFCL」らしく都市の空間に溶け込むような普遍的な美しさを放つアイコニックな9mのニットドレスを展示。見る人々のクリエイティビティを更新するような、圧巻の作品となった。
渋谷エリア
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THE SHOPPING & THE LIVE
渋谷ファッションウィーク2025春(SFW 2025 Spring)の主要プログラムとして展開された「THE SHOPPING & THE LIVE」は、約100店舗が参加した街全体型の回遊イベントである。スタンプラリー形式で店舗を巡りながらプレゼントをもらったり、アーティストによる音楽パフォーマンスやファッション体験が街中に点在。来街者は都市を歩きながら、物語を編むようにコンテンツと出会う構成となっていた。渋谷の地形や回遊動線を活かした仕掛けは、日常の延長に「偶然の創造性」を差し込み、TCSらしい大型コンテンツとなった。
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THE POP-UP
昨年も好評を得た「れもんらいふ」の千原徹也氏が先導する、クリエイターたちによるPOP UP SHOP "ARIGATO SHIBUYA"。渋谷・原宿にゆかりのあるクリエイターたちを集め、トークイベントやDJイベント、ショップやフード販売などを実施し、ファッション・アート・音楽など様々な角度からカルチャーに触れる機会を創出。都市空間の"すき間"を活用したPOP UPの出店は、渋谷という街が持つ即興性や柔軟性を象徴するものであり、都市そのものがクリエイティブのプラットフォームであるというT街の構造を体現していた。
J∞QUALITY FACTORY BRAND PROJECT ポップアップ(渋谷ヒカリエ)
「TCS Open Call 2025」の取り組みの一環で、「J∞QUALITY FACTORY BRAND PROJECT」が渋谷ヒカリエでポップアップを開催。全国のファクトリーブランドが生み出した高品質なアパレルや雑貨が一堂に会し、訪れる人々に「日本のものづくり」の価値と本質を提示する展示となっていた。染め物体験や端切を使用してコースターを製作する体験型ワークショップも行われ、終日人気を集めていた。また、東京都知事 小池百合子氏が視察に訪れるなど、ピックアップトピックスのひとつとなっていた。
原宿エリア
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URAHARA Fes.2025 STREET ENERGY(STREET RUNWAY)
原宿ウラハラキャットストリートで実施された「URAHARA Fes.2025 STREET ENERGY」は、新たなURAHARAカルチャーを発信するアイコニックなイベントだ。アートフリーマーケットに加えて、今回のランウェイショーにはZ世代から絶大な支持を集める「sweet steady」「KAWAII LAB. MATES」のメンバーがモデルとして登場したり、新進気鋭のデザイナー「NOZU YUSHIRO」がショーを披露。オープニングには歌舞伎役者の中村橋吾氏が登場するなど、カルチャーが息吹として根付く原宿らしい見事な演出となっていた。
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トートバッグ スタンプラリー
原宿エリアを回遊しながら楽しむ「URAHARAスタンプラリー」では、ベースとなるシンプルなトートバッグを無料配布し、参加者は本イベントに参加する原宿エリアのショップを巡ってステッカーを集めて、バッグをカスタマイズすることでオリジナルトートバッグを完成させる仕組みだ。街歩きをしながら、自分だけのプロダクトを楽しみながら製作できるという点で参加者の創造性を刺激し、TCSらしい考えが日常に落とし込まれたコンテンツとなっていた。
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原宿エリアショップイベント
原宿・表参道エリアに展開する複数のファッション・ライフスタイル店舗では、TCSとの連動による独自のショップイベントが展開された。限定アイテムの販売、アーティストやクリエイターとのコラボ展示、購入者特典の配布などが行われ、買い物体験の中に文化的価値を差し込む設計となっていた。URAHARAという街が持つ多層的な文脈が、それぞれの店先で解釈され、都市と人、商業と表現の関係性を再編集する構造となっていた。
赤坂エリア
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AKASAKA GEISHA PARADE(赤坂芸者パレード)
3月22日(土)、赤坂の通りを舞台に実施された「AKASAKA GEISHA PARADE」は、東京六花街の一つ、赤坂花街の芸者たちによる街の練り歩きのイベントだ。艶やかな衣装に身を包んだ芸者たちが優雅に街を練り歩く姿に、通行人や観光客からは盛んに歓声とシャッター音が飛び交い、都市の中の和の美を体感する貴重な瞬間が生まれていた。赤坂が持つ文化資源を現代都市の中で可視化し、街の誇りと共感を引き出す1日となった。
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TBS FASHION GALLERY 2025 ~ザ・ベストテン展~
赤坂BLITZスタジオのホワイエスペースでは、TBSの伝説的音楽番組「ザ・ベストテン」のアーカイブ展「TBS FASHION GALLERY 2025」が開催された。黒柳徹子氏の衣装展示をはじめ、往年のスターたちの写真パネルや再現されたセットなどが並び、訪れた人々は昭和歌謡の黄金時代に没入するひとときを味わっていた。テレビ・音楽・ファッションという異なる文化資源を横断しながら、都市の記憶をファッションとして再構築する本企画は、赤坂という"放送と文化の交差点"にふさわしい取り組みとなっていた。
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Akasaka Gradation
TCS 2025期間中、赤坂サカス広場に出現した「くつろぎと遊び場」の彩り空間。やわらかな赤いグラデーションが織り成すオブジェやインスタレーションが設置され、こどもたちの遊び場として、憩いの場として、訪れる人々が自由にくつろいでいた。赤坂のシンボルのひとつである赤坂サカスという都市空間に、人とメディアアートの接点を溶け込むように出現させ、来街者が知らずのうちに創造の感性に触れることができる仕組みとなっていた。
新宿エリア
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SHINJUKU COLLECTION 2025
新宿には数多くのファッション専門学校が点在するエリアでもあり。そんな土地らしいコンテンツがこの《SHINJUKU COLLECTION 2025》だ。未来のデザイナーたちが示す「次世代ファッション」と題し、国際ファッション専門職大学、東京モード学園、文化服装学院の学生たちが「新宿」をテーマに、古着をリメイクした独創的な作品を製作し、ファッションショーを開催。新宿という大勢の人や情報が混在するこのエリアらしく、学生たちの自由で無骨で斬新な感性が具現化され、都市の景観さえもを作品の一部へと昇華させていた。
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Life in Naturescene
新宿高島屋2階 ザ・メインスクエアで実施された、天然素材を使った家具と服の共演。北海道東川町で地球に優しい家具づくりを追求する「北の住まい設計社」と、時代や場所を超えて残る服づくりを目指す「POSTELEGANT」の取り組みをクローズアップしたコンテンツでは、豊かに生活を彩る天然素材をふんだんに使った家具と服、美しい自然と生活空間を繋ぐプロダクトが展示され、アートと環境意識が融合した作品の数々は来場者へ都市と自然の境界線を問い直すような体験をもたらしていた。
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東川町「木のある暮らし」展
新宿高島屋で2日間実施された、木工家具の温かみでつくる豊かな暮らしを体験できる本展。「家具・クラフトの町」といわれる北海道・東川町でつくられる家具やクラフト製品は、生活に上質な豊かさと温かみを与えてくれる。当日は熟練の職人が手がけた椅子の展示や、木工ワークショップ、特産品の販売も開催。存在するものを大切にし、持続的に共存することの尊さを示すようなイベントとなった。
羽田エリア
Colorful Sky
羽田イノベーションシティ(HANEDA INNOVATION CITY®)を舞台に初開催展開された《Colorful Sky》は、羽田と地域とつながるファッション・体験型イベントだ。エリアならではの文化と創造が交差する空間では、来場者の皆が一日中楽しめるコンテンツがたくさん用意された。さまざまなインスタレーションやマルシェ、フリーマーケット、国内トップクラスのBMXライダーやプロダンサーによるステージパフォーマンスまで11のイベントを実施。飛行機の翼の下、熱気のあふれる羽田シティで様々なカルチャーと創造性が融合する唯一無二の体験は、来場者たちにとって"羽田の楽しい思い出"として記憶されたことだろう。
北陸能登の復興支援の輪は羽田からミラノへ!
羽田空港 第2ターミナル3F 国際線出発ロビーに設置されたのは、一般財団法人 北前船交流拡大機構が保有する福井県・秋田県・石川県の伝統工芸品。さらに、能登地震からの復興を願って石川県輪島市に寄贈された北前船「黄金のフェニックス」もお披露目され、日本国外へ旅立つ人々を見守るように凛と佇んでいた。地域と都市、過去と未来を媒介する羽田エリアならではの展示だといえる。これらの展示作品は、2025年4月にイタリア・ミラノで開催される『ミラノデザインウィーク』にて、出展された。
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Sitting in the Sky
国内、海外ともに多くの人が行き交う飛行場は、活気にあふれ、大変賑やかな空間。そして羽田という地場の特性は東京でも特異性に溢れたエリアらしいインスタレーションがこの「Sitting in the Sky」。飛行機の窓から見える、形が変わる雲をイメージしたスツールは革新的な造形技術を核としたデザインブランド「130(ワンサーティ)」によるレーザープリントによるもの。また、再利用されたPET棒状のフレームを連結してつくられている。まるで雲に座るようなスツールは、地上と空の境目を軽やかに超える、持続可能性と儚い美しさを体現していた。
「TCS OPEN CALL 2025」で新たな才能を発掘
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Tokyo Creative Salon 2025の新たな挑戦の一つが、「TCS OPEN CALL 2025」である。本年度の開催テーマでもある「QUEST|さがそう~創造性・美意識の探求~」と共に目的を掲げ、多くのクリエイターとの共創を目指し初開催となった。ファッション、デザイン、アートなど、ジャンルを横断する創造者たちに門戸を開いたこの公募プロジェクトは、新たな才能を発掘するとともに、選出された作品は各エリアに「偶然の創造性」を呼び込む装置として機能した。
展示された作品群は、都市の文脈と響き合いながら、来街者の視点に揺さぶりを与えた。たとえば銀座では、原爆で変形した瓶を波佐見焼で再現した「Vase to Pray Exhibition」が、平和を祈る静かなメッセージを投げかけた。また、原宿では廃棄生地に刺し子を施したオリジナルブランド 「点と線と面 点を線でつないで面にする」が、伝統技術の再発見というTCSの思想と深く交差した。
さらに、「Tokyo Nowhere Girl」(日本橋)や「Design and Performance Exhibitions」(赤坂)などのファッション作品、「FP Inside」(丸の内)や「SAND PRODUCT」(渋谷)などの実験的デザインも、それぞれの街の風景と交差しながら、偶然の出会いとして現れた。羽田で展示された「『Swimming Birds』Tomorrow is another day/ 明日は明日の風が吹く」は、風にたなびく多言語のプレートを通して、都市と詩情の邂逅を描いた。
このように「TCS OPEN CALL 2025」は、プロフェッショナルと若手の垣根を超えたクリエイティビティが化学反応をおこし、TCSの目指す“未来の兆し”を提示する存在となった。従来のインスタレーションの域を超え、個々の表現が東京の空間に不意に差し込まれることで、来街者の感覚を更新し、都市の価値そのものを拡張していく。その可能性がここに示されていた。
TCSが拓く"東京の未来"
6年目となった東京クリエイティブサロン2025は、単なる文化イベントではなく、都市の可能性そのものを問い直す試みであった。丸の内、日本橋、銀座、有楽町、赤坂、六本木、渋谷、原宿、新宿、羽田。10の街に立ち上がった多彩な創造は、それぞれの地域が持つ歴史や個性と交錯しながら、来街者に「都市を再発見する視点」をもたらした。
TCSの本質とは、なにか。その問いのヒントとなるのは都市だろう。都市とは、インフラや建築だけではなく、人、記憶、文化、日常の選択から構成されている。そこに創造の余白を差し込み、偶発的な気付きや出会い、ちょっとした驚きを通じて、「ここは、こんな街なんだ」と人々の感覚に揺さぶりを与える。TCS2025が実現したのは、まさにそのような都市の再構築であり、再発見である。
今年のテーマである「QUEST|さがそう〜創造性・美意識の探求〜」は、まさに都市における「問い」そのものが重要なポイントとなっていた。来街者が「知っているようで知らない。知らないようで、懐かしい。なんでだろう。」そんなシンプルな問いを自らが自身に向けることで眠っている創造性や持っている感性を呼び起こす。
TCSの100を超えるコンテンツに共通しているものは、重層的な仕掛けにある。例えば展示やランウェイといった一方向的な表現だけではなく、回遊、体験、参加、対話、そして偶然。これらを通じて、都市は一過性の「イベント空間」ではなく、継続的に来街者の創造性が蓄積されるプラットフォームとなっている。
そしてTCSは、東京という都市の未来像を提示するだけでなく、持続的で長期的な視野をもって世界を見ている。そう、ビジョンは「東京を世界一のクリエイティブシティへ」である。60年以上続いているミラノサローネのように、世界中から人々が集まり、東京の街そのものを舞台としてクリエイティブを体感する。その未来への道のりはもちろん容易ではなく、きっと真っ直ぐではない。しかし年々エリアの拡大やコンテンツの規模の増加、共創し賛同する仲間たちの輪が広がっている。なんと心強く、ワクワクすることだろう。
東京のみならず、日本の価値と創造力は、もはや内向きではなく、世界に対して「新しい都市の価値とは何か」を問うための、大きな機会となるはずである。
裾野を広げながらも、皆が目指す北極星は変わらない。TCSの目指す未来が、今から楽しみだ。
左から田中 ヒロ氏、浜野 良太氏、大西 洋副会長、廣内 武会長、齋藤 精一氏、寄本 健氏
<実行委員会> 会長:廣内 武 副会長:大西 洋 アドバイザー:清原 雅文/栗野 宏文/林 拓ニ <企画・プロデュース> 統括クリエイティブディレクター:齋藤 精一/パノラマティクス 統括共創ディレクター:浜野 良太/(株)アンドーナッツ エリア統括クリエイティブディレクター:田中 ヒロ/(株)東急エージェンシー 統括エリアディレクター:寄本 健/東急(株) アートディレクター・デザイナー(キービジュアル):色部 義昭/ (株)日本デザインセンター <TCS 2025 イベント概要> ・名称:TCS 2025(東京クリエイティブサロン/Tokyo Creative Salon 2025) ・開催期間:2025年3月13日(木)~3月23日(日) ・開催エリア:丸の内、日本橋、銀座、有楽町、赤坂、六本木、渋谷、原宿、新宿、羽田 ・メイン会場:東急プラザ原宿「ハラカド」 ・主催:東京クリエイティブサロン実行委員会 ・公式HP:https://tokyo-creativesalon.com/ ・公式Instagram:https://www.instagram.com/tokyocreativesalon/ ・公式X:https://twitter.com/tokyo_c_s |